今年3作目になるシングル「雪月花」をデジタルリリースしました。
制作の背景
8月に「Sprinkle」を出した後、あともう何作か今年中に出せそうだな、と言ったんですけど、並行してAudiostockのための曲を定期的に作り出したりしたために、思ったより余裕もなく結果的に1曲だけになりました。
Sprinkleがリリースできた直後の時点では「次出すなら歌ものをやろう」ということだけ決まっていて、EDMでアゲな感じも候補にあったんですが、昨今のステイホーム風潮で、家で音楽を聴くという習慣が増えただろうからリラックスムードなものでもありかと思ったのと、どうせなら今までの自分の作品にない全く新しい要素を入れようということで、
00年代のボカロによくあった和風メロ+10年代以降のシティポップ感、という路線と、これまであまりやってこなかった「季節感」のある曲、という方向性になりました。
僕が人前で演奏するのはここ3年ほどロックバンドのサポートばかりですが、元々自分がベースを始めた頃はR&Bをやりたい、と思っていて、昔そういうバンドはやっていたものの、自分のソロ名義ではほとんどそういう要素は入ってなかったなと思って、今年の正月に作った「Mutsuki」という曲↓を引っ張り出して、フル尺の歌に発展させました。
(今聴き返すとこれマジで音がスカスカだな…) このMutsuki、雰囲気はすごく気に入っていたものの、ここからどう発展させるか当時はイメージがついてなかったんですが、歌ものにしようと考えてからはサクッと最後まで展開が作れました。
サウンド的には冬=雪というワードが頭に浮かび、雪山の中+雪山から麓を見下ろした広がり感をバンドサウンド+補強のシンセで演出する方向性で、演奏、アレンジ面ではマスタリング以外のギター、ベース、シンセ、ドラム打ち込み、ミックス全てを自分でやりました。
自分のソロ作品では初の女性ボーカル
ボーカルはがきえさん
「Mutsuki」をリメイクすると決めた段階で、ボーカルは女性にお願いしようというのもイメージがあって、自分の正式なソロ作で女性ボーカルに歌ってもらったことはなかったので、これも初めての試みというところでざっくりアレンジが固まった後にボーカリストを探し始めました。
色んなところで色んな人の歌を聴かせてもらった中で、曲調の繊細なイメージに合った声質だったので、がきえさんにお願いしました。
がきえさんは仮歌の時点で、何パターンも歌い分けを提示してくれたり、曲を聴いて「こう思うからこうしてみた」というアイディアをバンバン反映させてくれて、その参加姿勢がとてもありがたく、作曲者としてはめちゃくちゃ嬉しかったです。
かつ歌唱力自体も高くて、その中から歌の定位やエフェクトとかの演出的なアイディアもインスパイアされて、非常に楽しく制作させてもらいました。
マスタリングはPIANO FLAVAさん
また、マスタリングを、プロデューサー・マスタリングエンジニアとして活動しているPIANO FLAVAさんにお願いしました。
PIANO FLAVAさんは以前あるきっかけで直接お話させていただいたことがあり、マスタリングの実績も豊富な方で、僕がマスタリングやるとどうしても限界あるなあ…と感じた時に、もしかしてお願いできないかなと依頼させていただいたら爆速で仕上げていただけて大変感謝しております。
「雪月花」は括りで行くとJ-POPになると思うので、最近のJ-POPと並べられても遜色ない音量が出てて、でも曲の魅力は繊細さや広がりにあるので、そこを潰しすぎないくらいの塩梅を探りながら一緒にやらせてもらって、非常に満足いくサウンドになりました。
「歌もの」に真摯に向き合ってみた
これまでボーカリストとのコラボレーションは何度もやっているんですが、僕は「インストをやる人」みたいな意識があって、これまでの制作でよくあったパターンとして ・バックの音だけ作ってメロディと歌詞はお任せします ・バックの音とメロディは決めてるけど好きに変えていいです の2つが主で、どちらかいうと歌そのものはボーカリストの裁量に任せっきりなことがほとんどでした。
しかし、今回は「自分のイメージしている世界観をちゃんと自分で作ろう」「自分で完結できる作業範囲を広げよう」という制作上の裏テーマがあったので、歌、というものにちゃんと向き合ってやろうと、作詞からボーカルメロ、ハモリメロ、ボーカルディレクションまで歌うこと以外の全部に取り組みました。
特に作詞の部分では、「冬」という季節を表現する+日本的な叙情感で言葉を調べていたら、凍晴、霜夜、白姫、風花とか、冬の情景や寒さを表す美しい言葉をたくさん見つけたのでふんだんに取り入れつつ、拾遺集の柿本人麿の詩のワンフレーズを引用したりと、美しい日本語表現に徹底的にこだわりました。(自分の経験的に、作詞そのものは10代の頃1曲だけやったっきりなので、その経験値で考えるとなかなかちゃんと出来たな、と自画自賛しております) そして、「雪月花」という言葉で、日本の冬という季節的な時間変化そのものを歌詞の中で表しています。
雪月花 歌詞
曲のストーリーと世界観
曲のストーリーは、日本の豪雪地帯の山の中で、冬が訪れて春が来るまでの季節の移り変わりとその中で生きる人の心情を表現してみたもので、
曲の中の人は多分昔何かあったんだと思いますが、そこを押し出しすぎず、聴き手が気にしてもしなくても楽曲として聴ける、という塩梅を目指しました。
この曲に限らず自分のどの曲も一応、楽曲のストーリーとかコンセプトは僕の中ではあるんですが、音楽の作り方として、個人的な主義主張を明確に出すよりは場面や現象を切り取って抽象的に表現するタイプでして、
その中の具体的なストーリーは聴いた人が自由に、楽曲の展開の仕方も想像のための素材の一つにしてイメージしてもらえたら作曲者としては嬉しいです。
雪月花はモロに真冬の曲なので、リリースするタイミングもできるだけ冬に、でも今年中には出したい、と思ったのですが、早く聴いて欲しいという気持ちが強くて、
定番の冬J-POPのリリース時期を調べたら、雪の華が10月、粉雪は11月にリリースされていた前例もあって、日本の暦的には11月7日が立冬だし、と思いこのタイミングになりました。
一番挑戦したかったのは「普遍性」
ポップスって、メタルやジャズみたいな「道を極める」要素の強いジャンルや、先進性を重視するプログレとかアンダーグラウンドな世界に比べると軽く見られがちだと思うんですが、普遍性があって、できるだけ多くの人に受け入れられる音楽を作れる、ってシンプルにすごいことだと思うんですよね。
僕も最初のアルバム「Sound Sphere」を出した2019年頃は、音楽に対する自分の美学を叩きつけるような作風にして、わざと抽象的にしたり、キャッチーさに安易に逃れないぞなんてことを考えてたんですが、
最近のモードは「自分が作る意義は作品に込めるけど、聴く人を徒に制限せず、多くの人に聴いてもらえる努力を曲の中でやろう」というように、できるだけ普遍的な音楽になるように、という考えに切り替わって、それが雪月花にも表れていると思います。
Sound Sphere自体は個人的には今でも好きだし、聴いてくれる人もいまだにいる作品ですが、こういう発想に変わったのは「BGMなどの音楽を提供していこう」という作家活動を始めたから、という理由が大きく、多分この発想は今後しばらく自分の作品にも表れてきそうな気がします。
また、自分の音楽の売りというかテーマってなんだろうって最近ずっと考えていたんですが、この曲が出来たことで、「繊細、壮大、ストーリー性」という言葉に集約できるな、と思いました。そういう意味でも自分にとってターニングポイントになった曲です。
今回の雪月花は冬の訪れから春が来るまでの間の季節に合って長く聴けると思うので、誰かの冬のBGMに添えてもらえたらとても嬉しいです。
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